九州を出て山口県に入ったものの、体力・集中力は既に限界にあった。進むべき道は山間部へと続いてゆく。
気温は下がり、強風も相変わらずでハンドルをとられる。
各パーキングで必ず留まるのだが、とうとう立ち上がれなくなってしまった。
テント張りのベンチで寝ていると雨が降ってきた。
横風で雨に打たれる。しかし、移動する元気もなく意識は飛ぶ。
気が付くと雨は上がっていた。調子は悪いが風邪をひいた風ではない。
とりあえず水分を補充して一路、広島を目指す。
200キロ、100キロと距離を縮めてゆく。そして夕方四時前に市街地に到着。
毎度の如く、土地勘を掴む為に徘徊、そして聞き込み。
目星を付けたら、宿泊場所の確保。流石にまた野宿は勘弁したかったのだ。
広島の地に訪れたのは小学校の修学旅行以来である。
「被爆の地」以外にイメージは無く、正直敬遠していた程だ。
近年人口は百万人を超え、中心地の活気も今まで訪れた街の中では最もある。
路面電車が走っている為か交通事情は少々困難ではあるが、街自体は好印象だ。
シャワーを浴びたり着替えたりして夜九時を迎えた。営業を開始する。
始める頃にはすでに弾き語りのグループもチラホラと。選択したスポットに間違いは無いようだ。
「ごめんね、君らのお客さんを頂くね」
と心の中で呟きながら活動開始。始めるとすぐにお客さんに囲まれ始める。
順調順調、と思っているとそんなに甘くなかった。
広島@ープファンの乱入・・・。
この日の勝敗は知らないが、酒が入っている上にくだを巻いている。
それでもって自分の正面0.5メートルの所で座り込む訳だから性質が悪い。
「あ、大道芸やってるよ」の声はすれども、誰も近寄れないのだ。
しばらく続けていると酔っ払いに冷たい視線が集まり、本人らにもそれに気付いた様子。煙草を投げ銭箱に捨て立ち去っていった。
煙草を自分の持っていたゴミ袋に拾い入れ、お詫びとばかりに再開する。
沢山の暖かい拍手と笑い声、そして売り上げに恵まれながら夜興行を終了。ご機嫌に呑みに繰り出す。大量の小銭を持って。
そんな事だから儲けが無くなっちゃう、と言われる事もあるが一概にそうとも言えない。
自分にとって興行後の飲食は、持ち運びに不便な小銭をコンパクトにする為の「精算作業」とも言える。
今回、精算作業の為お世話になったのは「大衆居酒屋 圓屋(つぶらや)」さん。
基本的に和食好きな自分の六感を大いに喜ばせて頂きました。
暖簾の掻き分け、早速生を注文。
入店時すでにラストオーダーを迎えていた為、店員さんのお勧めに従い早々と注文を済ませる。
そしてポケットから文字通りじゃらじゃらと小銭を取り出し、千円単位に並べだす。
迷惑な行為だと実感はあるので静かに目立たない様に行う、が店員さんに発見される。
「何かされている方ですか?」
「・・・ええ、大道芸を少々」
カウンター越しに話しかけられ、
「どちらからいらっしゃったんですか?」
「大分別府から大道芸の旅をしています」
「ほう、それじゃ何かみせてくださいな」
「お店の中は狭いので、余興などで使えるショートコントでもやりましょう」
研究所仕込みの「医者と患者」コントをやってみる。
「卵、投げていいですか?」
「いやいや!これはジョークですよ、ジョーク。実際の大道芸ではこんな事しませんって!」
「それじゃ明日の昼に見に行きますよ、子供と卵を持ってね」
最高の夜でした。秘蔵の米焼酎「鬼兜」まで頂戴しました。
見知らぬ土地での一人旅、これだけ暖かく迎えて頂けるとは!
こんなに幸せな事はありません。正に感無量!
14日に広島入りした際、過ぎたる6日に黙祷すら忘れていた事を思い出した。
翌15日は「終戦の日」という事もあり、午前中は平和公園を散策しました。
日本人だけでなく外国人の方も多く居ました。千羽鶴が掲げられ、子供の歌声が聞こえてきます。
川沿いの静かな風が流れる中、黙祷を捧げました。
時代は違えども、当時も静かな朝だったのでしょう。
同じ惨劇が起きないよう、切に願った。
昼前から活動を再開。炎天下での演技に何もせずとも汗が流れ落ちていきます。
感謝の地で演技出来る喜びを胸に演技に集中。ふと気が付くと、どこかで見た面々が。
最後の力を振り絞り、「影」の演技で幕を下ろします。いや、下ろさせてはくれませんでした。
「このバットで何かやってください」
出た!応援メガホン!! タダでは終われないだろうと思っていたがやっぱり!!
まさかの事態を予測して用意していた野球帽を取り出し、初お披露目の一芸で応える事が出来ました。
この店主、なんと差し入れまで用意してくれてまして。手製のおにぎり、穴子寿司、そして卵・・・。
ほんとに持って来ていたとは・・・。
「投げずに済みましたよ」との言葉を残し帰って行きました。
僕は誓いました、「来年も来ますよ」と。
荷造りを済ませて、広島を出発。帰路の途中に差し入れを頂く。
「精がつくように」と気遣ってくれたんだな、と思っていると
卵はゆでたまごだった。つい噴出してしまう。
一人旅とは思えない賑わいだ。
一般の人から見るとまるで変人だろう。
しかし違う。
この時、自分は誰よりも人としての感情を身体いっぱいに浴びていたのだ。
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